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福岡地方裁判所 昭和39年(行ウ)9号 判決

原告 飯尾正行

被告 大牟田税務署長・福岡国税局長

主文

原告の、被告大牟田税務署長米満頼喜に対する請求を棄却し、

被告福岡国税局長鈴木喜治に対する訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告

1、被告福岡国税局長鈴木喜治(以下被告局長と略称する)が原告に対し、昭和三九年四月一日付でなした、昭和三九年四月一日付でなした、昭和三七年度分所得税更正決定に対する原告の審査請求を棄却する旨の決定はこれを取消す。

2、被告大牟田税務署長米満頼喜(以下被告署長と略称する)が原告に対し昭和三八年九月七日付でなした原告の昭和三七年度分所得税に関する更正処分は総所得金額三六万二、七〇九円を超える部分は、これを取消す。

3、訴訟費用は被告らの負担とする。

二、被告ら

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、原告の請求の原因

一、原告は昭和三八年三月一五日被告署長に対して、昭和三七度分所得税について総所得金額を金三六万二、七〇〇円、課税される所得金額を金二万二、二〇〇円およびこれに対する税額を金一、七六〇円とする確定申告をしたところ、被告署長は昭和三八年九月七日付で右総所得金額を金六九万八、八九七円、課税される所得金額を金三五万八、四〇〇円およびこれに対する税額を金四万二、〇五〇円とし、増加納付税額を金四万〇、二九〇円と更正する旨の処分を行い、その頃その旨原告に通知した。そこで原告は同年一〇月五日被告署長に対し異議の申立をしたが、被告署長は同年一二月二〇日これを棄却した。更に原告は昭和三九年一月二〇日被告局長に対し審査請求をしたが、同局長は同年四月一日付でこれを棄却し、同月三日その旨原告に通知した。

二、しかし、被告局長のなした審査決定(以下本件審査決定と略称する)および被告署長のなした更正処分(以下本件更正処分と略称する)は次のとおり違法な処分であるからその取消を求める。

(一)  審査決定の違法

本件審査決定には「(一)請求人の収支計算は算定の基礎が不十分であり、また、原処分庁は酒類価格の改訂等について調理計算していないから収入計算に誤りがあり、いずれも採用できない。(二)協議団が請求人所持の酒類受払帳および提示した売上仕入明細その他証拠書類並びに請求人の申立等を基に検討し、収支計算により所得額を算定したところ原処分庁の更正額を上廻わり審査請求の理由は認められない。」との理由が付記されているだけである。

しかし、行政不服審査法第四一条第一項により、審査決定に理由の付記を要するという趣旨は、審査決定の根拠を具体的に明らかにすることにより判断の慎重を期し審査機関の恣意を封じ、公正を保障し、無用の争訟を未然に防止しようとすることにある。従つて、理由附記の程度も原処分を正当として維持した判断の根拠を請求人の不服の事由に対応して結論に到達した過程を具体的に記載すべきである。本件審査決定の前記のごとき記載は右法条が定める要件を具備しないものであり、結局同法条所定の理由を附したことにはならないものである。

(二)  更正処分の違法

原告の昭和三七年度における総所得金額は金三六万二、七〇九円であり、被告署長の本件更正決定中右金額を越える部分は原告の所得を過大に認定した違法があり、右認定を基礎にして課税さるべき金額を金三五万八、四〇〇円およびこれに対する税額を金四万二、〇五〇円とし、増加納付税額を金四万〇、二九〇円としたのは違法である。

第三、被告の請求原因に対する認否並びに主張

一、認否

請求原因第一項の事実および第二項のうち本件審査決定に原告主張のとおりの理由の記載がなされていたことは認める。

二、主張

原告は昭和三七年当時酒類の販売を業としていたものである。同年度における原告の所得税についての明細は別紙被告主張欄記載のとおりであり、総所得金額は金八八万五、三四五円となるから、これより低額の総所得金額金六九万八、八九七円を認定した被告署長のなした更正処分には取消されるべき違法はない。

第四、原告の、被告の主張に対する認否

一、原告が酒類販売業を営んでいたことは認める。

二、被告主張の別紙記載の収支の明細のうち、売上金額、原価、差益金額、雑収入金額、特別経費、専従者控除額はいずれも認め、その余は否認する。被告の主張に反する項目についての明細は別紙原告主張額欄記載のとおりである。

第五、証拠〈省略〉

理由

一、請求原因第一項の事実については当事者間に争いがない。

二、本件更正処分の違法性について

(一)  被告主張の原告の収入支出の項目のうち、売上金額、仕入原価額、差益金額、雑収入、専従者控除額については当事者間に争いがない。

(二)  必要経費について、被告は総額金二三万八、七三二円であると主張し、原告は総額金三五万五、四七七円であると主張するのであるが、右経費の総額が右原告主張額を越えないものであることは、原告の認めるところであると解せられる。そうとすれば、右原告の主張金額が全て経費として支出されたものとしても、同人の所得金額は、

差益金額-必要経費+雑収入金額-特別経費-専従者控除額=所得金額

980,392円-355,477円+351,797円-68,112円-140,000円=768,600円

となり、被告署長の本件更正処分により認定された所得金額金六九万八、八九七円は原告が認める収入支出額により算出した所得金額を越えないことが認められる。

したがつて、必要経費として支出された額について判断を加えるまでもなく、本件更正処分について原告の所得金額を過大に認定した違法は存しないことが明らかである。

三、本件審査決定の違法性の有無

原告は、本件審査決定について、付記された理由が不備であり、右決定に取消さるべき違法があると主張する。

しかしながら、本件のように審査決定の取消と併合して原処分の取消をも訴求している場合において、前記認定のように原処分の取消請求の理由がないことが明らかである以上、単に審査決定の理由付記の不備を理由に本件審査決定を取消すことはできないものと解すべきである。けだし、かりに右理由により本件審査決定を取消したとしても、原処分について原告の所得金額を過大に認定した等の違法が存しない以上、被告局長としては、原処分を取消す余地もなく、結局原処分を維持した本件審査決定と同趣旨の決定をあらためてなすだけのことであり、原告としては右審査決定を取消すべき法律上の実益は全くないからである。

四、結論

よつて、原告の、被告署長に対する請求は理由がないからこれを棄却し、被告局長に対する訴は不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岩崎光次 越山安久 福井欣也)

(別紙省略)

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